犬の認知症
症状と、家でできること
- 犬の認知症(認知機能不全症候群)は、脳の老化で行動がゆっくり変わっていく病気。人のアルツハイマー病に似た変化が脳に起こる
- よくあるサインは、迷う・家族への態度が変わる・昼夜逆転・トイレの失敗・歩き回る・不安の6つ
- 年齢とともに増え、ある調査では13〜15歳で約45%、15〜17歳で約67%にサインが見られた
- 同じサインは痛みや目・耳の衰え、腎臓病などでも出るので、まず動物病院で調べる
- 治すことはできないが、環境・遊び・食事・薬で進み方をゆるやかにしたり、困りごとを減らしたりできることがある
こんなことで困っていませんか
- 最近ぼーっとしていることが増えた。認知症かもしれない
- 夜中に起きて、歩き回ったり鳴いたりする
- 初期症状を知って、早めに気づいてあげたい
- 認知症と言われたら、どれくらい生きられるのか心配
犬の認知症とは
犬の認知症は、正式には「認知機能不全症候群」とよばれます。年齢とともにゆっくり進み、考える力が落ちて行動が変わる病気です。犬の脳には、人のアルツハイマー病に似た(同じではない)変化が起こるとされています(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)。
年をとるほど多くなります。アメリカの調査では、飼い主へのアンケートで認知機能不全が進んでいると考えられた犬は、8〜11歳で8.1%、11〜13歳で18.8%、13〜15歳で45.3%、15〜17歳で67.3%でした。一方で、そのうち以前に認知症と診断されていた犬は1.8%だけで、見のがされやすい病気だとされています(MacQuiddy ほか(2022)「認知機能不全が進んだ犬の危険因子」)。
動物病院の資料では、犬は7歳から毎年、認知症のチェックを受けることがすすめられています。大型犬は小型犬より早く年をとります(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)。
よくあるサイン(6つの変化)
獣医師のあいだでは、6つの変化の頭文字をとって「DISHAA(ディシャー)」とよばれる見方がよく使われます(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」、コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)。
| 変化 | たとえば |
|---|---|
| 迷う(見当識の低下) | 家の中で迷う、部屋のすみや家具のうしろで動けなくなる、ドアのちょうつがい側で待つ、ごはんや水の場所がわからない、家族がわからないようす |
| 関わり方が変わる | 甘えなくなる・呼んでも来ない、逆にべったり離れない、家族やほかの犬に怒りっぽくなる |
| 寝起きのリズムが変わる | 昼に寝てばかりで、夜に起きて歩き回る・鳴く(飼い主が最初に気づくことが多い) |
| トイレ・覚えたことを忘れる | 家の中でトイレを失敗する、外から帰ってすぐにする、寝床でする、知っている合図にこたえない |
| 活動が変わる | 遊ばなくなる、目的なく歩き回る、同じところをぐるぐる回る、壁や宙を見つめる |
| 不安が強くなる | 前は平気だった雷や物音をこわがる、留守番で落ち着かない |
動物病院の資料では、このうち2つ以上のサインがあるときは、体と行動の両方を診てもらうことがすすめられています(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)。家で記録をつけるなら、犬の認知症チェックが使えます。
認知症とまちがえやすい病気
ASPCAは、「年のせい」と決めつける前に、関節炎、歯の病気、甲状腺の病気、がん、目や耳の衰え、尿路の病気、クッシング症候群などがないか調べるべきだとしています。それでも説明できないときに、脳の老化による認知症と考えます(ASPCA(米国動物虐待防止協会)「高齢犬の行動の問題」)。
- 関節の痛み関節炎があると、出迎えに来なくなるなど、認知症のように見えることがあります(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)
- 腎臓病・のどがかわく病気おしっこが増えて、トイレの失敗が増えます(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)
- 膀胱炎トイレの失敗を認知症と考える前に、膀胱の感染がないか調べます(コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)
- 前庭疾患急に首がかたむく・ぐるぐる回る・目がゆれる病気で、認知症とまちがわれやすい(コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)。くわしくは徘徊・ぐるぐる回るへ
動物病院では、ようすを聞いたうえで、血液検査などでほかの病気がないかを調べます。必要ならMRIで脳を調べることもあります(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)。
家でできること
頭と体を使う時間をつくる
動物病院の資料では、「使わないと衰える」として、知っている芸を毎日おさらいする、かんたんな新しい芸を教える、おやつを探させるおもちゃや宝探しで鼻を使わせる、その子に合った遊びや運動を続ける、ことがすすめられています(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)。コーネル大学の資料でも、においをかぐ散歩、ノーズワークマット、知育おもちゃなどがあげられています(コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)。
毎日の流れを変えない
ごはん・散歩の時間、寝る場所、お皿の場所を毎日同じにすると、混乱しにくくなります(コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)。
家の中を安全に
- 階段や家具のうしろなど、はまりやすい場所をふさぐ(コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)
- すべる床にマットを敷く、段差にスロープをつける(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)
- 夜は小さな明かりをつける(コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)
- トイレを近くに増やす(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)
- 迷子に備えて、マイクロチップの情報を最新にし、連絡先つきの首輪をつける(コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)
夜鳴き・トイレ・徘徊それぞれの工夫は、夜鳴き、トイレの失敗、徘徊のページにまとめました。
不安やいらだちを減らす
不安やいらだちは、考える力をさらに落とすとされています(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)。しかったり、急に環境を変えたりせず、静かに休める場所をつくってあげましょう。新しいペットを迎えるのは、年をとった犬には大きな負担になることがあります(コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)。
薬・食事・サプリ
認知症の治療では、環境の工夫や行動の練習に加えて、薬を使うこともあります(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)。北米では「セレギリン」という薬が犬の認知症に使われていて、効果が出るまでに3〜6週間ほどかかるとされています(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」、コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)。日本で使える薬や、その子に合うかどうかは、かかりつけの獣医師に相談してください。
抗酸化成分やオメガ3脂肪酸、中鎖脂肪酸(MCT)などを加えた食事やサプリもありますが、年をとった犬での研究はまだ少ないとされています(コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」、VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)。食事を変えるときは獣医さんに相談しましょう。
認知症と言われたら、余命は?
認知症そのものの余命を、はっきり示した資料は見つかりませんでした。認知症はゆっくり進む病気で、元にはもどりません(VCA動物病院「高齢のペットの認知機能不全症候群」)。ただ、早めに気づいて手を打てば、進み方をゆるやかにして、いっしょに過ごす時間の質を上げられるとされています(コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)。ほかに持病があるときは、その病気の見通しもあわせて、かかりつけの獣医師に聞いてください。
コーネル大学の資料では、少なくとも半年に1回の健康診断と、月1回や週1回の家でのチェックがすすめられています(コーネル大学 犬の健康センター「高齢犬の認知症」)。
よくある質問
犬の認知症の初期症状は?
夜中に起きて歩き回る・鳴くといった寝起きのリズムの変化は、飼い主が最初に気づくことが多いサインとされています。ほかに、部屋のすみで動けなくなる、呼んでも来ない、トイレの失敗、遊ばなくなる、などがあります。
犬の認知症は何歳から?
年をとるほど増え、ある調査では8〜11歳で8.1%、13〜15歳で45.3%、15〜17歳で67.3%にサインが見られました。動物病院の資料では、7歳から毎年チェックすることがすすめられています。
犬の認知症は治る?
元にもどすことはできませんが、環境の工夫、頭と体を使う遊び、食事、薬などで、進み方をゆるやかにしたり、夜鳴きなどの困りごとを減らしたりできることがあります。
犬の認知症は予防できる?
確実に予防する方法はありません。知っている芸のおさらい、においをかぐ遊び、運動を続けることや、抗酸化成分を加えた食事などが、脳の健康を保つためにすすめられています。
急に認知症のようになったのは?
認知症はゆっくり進むので、急な変化は別の病気のことがあります。急に首がかたむく、ふらつく、ぐるぐる回るときは、前庭疾患や脳の病気のことがあるので、早めに動物病院に連絡してください。